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「投資成績が良いのは死んだ人」説の根拠を辿る

「投資成績が良いのは死んだ人」説の元ネタと根拠を調べます。

「投資成績が良いのは死んだ人」説

以前、運用成績が良かったのは亡くなっている人だ、という画像が話題になりました。

画像はこちらから引用

以後、色々なところで引き合いに出されて議論されている言説です。

この「投資成績が良いのは死んだ人」説の根拠や元ネタを調べてまとめます。

元ネタと根拠

まずはこの調査結果、何が出典なのかというと、2014年に配信されたBloomberg RadioのMasters in Businessシリーズでの会話が元とされています

James O'Shaughnessy氏とインタビュアーのBarry Ritholtz氏の会話の中で、以下のやり取りがありました。

O'Shaughnessy: "Fidelity had done a study as to which accounts had done the best at Fidelity. And what they found was..."

Ritholtz: "They were dead."

O'Shaughnessy: "...No, that's close though! They were the accounts of people who forgot they had an account at Fidelity."

参考: Forgetful Investors Performed Best

(訳)

O'Shaughnessy「Fidelityは、Fidelity口座の中でどんな口座が最も投資成績が良かったのかを調査しました。そして判明したのは...」

Ritholtz「亡くなってる人だった」

O'Shaughnessy「いえ...でも近いです!Fidelity口座を持ってることを忘れた人達だったのです」


該当部分の会話は、下記の58:57あたりから聞くことができます。

Masters in Business: James O'Shaughnessy - Mixcloud

このFidelityが行ったとされる調査ですが、探してもそのデータや正式な調査結果を見つけることはできませんでした。 Fidelityの調査に言及している情報も、辿っていくと全て上記の会話が出典になっています。

まとめると、

  • 「投資成績が良いのは死んだ人」説の出典は、2014年のO'Shaughnessy氏の発言
  • 「投資成績が良いのは死んだ人」とは言っておらず、「口座を持ってることを忘れた人」と言っている
  • Fidelityの調査自体は、その存在が不明

ということになるでしょう。

O'Shaughnessy氏は何者なのか

上記の発言をしたO'Shaughnessy氏は、どのような方なのでしょうか?

該当のポッドキャスト回の説明を見ると、

James O'Shaughnessy, the chief executive officer of O'Shaughnessy Asset Management.

とあります。

2014年当時にO'Shaughnessy Asset ManagementのChief Executive OfficerだったJames O'Shaughnessy氏は、本も出版されている著名な投資家のようです。

en.wikipedia.org

O'Shaughnessy Asset Managementは2022年にリタイアして、現在(2023年)は息子のPatrick O'Shaughnessy氏がChief Executive Officerをやられています

O’Shaughness親子 | 画像はこちらから引用

息子のPatrick O'Shaughnessy氏も、Twitter/Xフォロワー26万人の有名な投資家のようです。

Patrick O'Shaughnessy氏のTwitter/X


ちなみに、Fidelityにも何人かO'Shaughnessyの名前の方が在籍していらっしゃいます。 (例:こちらこちらなど)

が、Fidelityの調査に言及した上記のJames O'Shaughnessy氏との関係性はよくわかりませんでした。

それでも例え話として秀逸な「投資成績が良いのは死んだ人」説

データとして明確な根拠が示されたわけではない、ということが分かりましたが、それでも「投資成績が良いのは死んだ人」説は、例え話や風刺として秀逸と言えるでしょう。

  • 下落相場で狼狽売りする
  • 利益より損を避けたがる認知バイアスにより「高値で買って安値で売る」を繰り返す
  • 頻繁な取引をして手数料がかさむ

など、投資においては実行したアクションが裏目に出ることがよくあります。

「余計なことをせずに放置しろ」というのはよく語られる投資アドバイスの一つですが、それを端的に伝えるのに「投資成績が良いのは死んだ人」という話はキャッチーで有用です。

論文「頻繁な取引がパフォーマンスを低下させる」

「投資成績が良いのは死んだ人」とは違いますが、「頻繁な取引がパフォーマンスを低下させる」ということについては、いくつか有名な研究があります。

Brad M. Barber and Terrance Odean, "Trading Is Hazardous to Your Wealth: The Common Stock Investment Performance of Individual Investors," The Journal of Finance, 2000.
https://faculty.haas.berkeley.edu/odean/papers%20current%20versions/individual_investor_performance_final.pdf

こちらは、現在被引用数4954の有名な論文です。 ある大手ブローカーに口座を持つ1991~1996年の66,465世帯を分析し、頻繁に取引をする人々の投資成績が平均を下回っていたことを示しています。

Of 66,465 households with accounts at a large discount broker during 1991 to 1996, those that trade most earn an annual return of 11.4 percent, while the market returns 17.9 percent. The average household earns an annual return of 16.4 percent


Terrance Odean, "Do Investors Trade Too Much?" The American Economic Review, 1999.
https://faculty.haas.berkeley.edu/odean/papers%20current%20versions/doinvestors.pdf

こちらもまた有名な論文です (被引用数3477)。 この論文では、売却した株式が売却後により高いパフォーマンスを示す傾向があることを示しています。

Figure 1を引用 | 売却した株式は売却後、購入した株式よりも高いパフォーマンスを示す傾向にある

まとめ

  • 「投資成績が良いのは死んだ人」説の元ネタは、2014年のO'Shaughnessy氏の発言
  • 実際は「投資成績が良いのは口座を持ってるのを忘れてた人」が発言の主旨だった
  • その根拠とされるFidelityの調査は実在を確認できない
  • 「頻繁な取引がパフォーマンスを低下させる」という研究は存在する
  • とはいえ「投資成績が良いのは死んだ人」説は、例え話・風刺として秀逸だよね

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